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2021.12.20
シンポジウム「女性リーダー育成への挑戦」に学ぶ①

N.K
心理学科所属
心理学科所属
「女性リーダー育成への挑戦」は、女性文化研究叢書第12集として出版された。叢書は1991年に創刊。第12集は女性リーダーをいかに育成するのかというテーマで、全8章を研究員たちが分担してまとめた。武川所長によれば、「女性リーダーの育成を大きな使命とする本学において、今後の100年のビジョンを考えるうえでリーダーシップ教育のさまざまな課題を多面的に研究することが重要」ととらえ、創立100周年のテーマに設定したという。シンポジウムでは各章を担当した所員が詳細を発表した。
役員を目指す女性の育成に必要なもの
「役員を目指す女性の育成に必要な経験・意識・環境とは」(第4章)について伊藤純教授、青木美保准教授が研究概要を発表した。本学が内閣府から受託した「女性エグゼクティブ育成研修」の参加者で部長級以上の9人を対象に、女性役員の増加・育成促進にとって重要であると考えられる「経験」、「環境」、「意識」についてインタビュー調査を実施し、回答から浮上した共通テーマ、構成概念をまとめた。経験その1 : 一皮むける体験
回答者たちの一皮むける体験は1)大きすぎる任務、2)新規事業・事業売却・子会社の責任者、3)失敗・苦悩の3つに大別された。これらの一皮むける経験がマイクロマネジメントからの脱皮、全体俯瞰力、視座を上げる、視野を広げる、マネジメントスタイル・リーダーシップスタイルを見直すきっかけになったとの回答がされた。その中で新規事業・事業売却・子会社の責任者ポジション経験者達から「この異動は失敗してもよい傍流ポストなのか?本命の男性なら配属されないポストなのではないか?事業売却後の自分のキャリアパスは?」という疑問が頭をよぎり、疑心暗鬼に陥ったという回答が複数あり、異動理由や今後のキャリアパスに対する説明不足が指摘された。
経験その2 : リーダーシップスタイル
エンパワーメント、部下に失敗させながらのプランBシミュレーション、個に応じた強み育成、アクティブリスニングなどが回答に挙がった。また一つのスタイルではなく組織・状況・任務・役職に応じたリーダーシップスタイルを取る柔軟性や対応力をもった人が多数いた。環境 : スポンサー、人事制度・施策、「配慮」という名の性差バイアス
回答者の多くが何らかの形でスポンサー(人事に対し発言権を持つ地位にいる上級管理職、一皮むける体験に抜擢する権限がある上位管理職)のレーダーに浮上し、それが発端となりキャリアアップにつながった。また、社内ネットワークがより重視され社外ネットワークに関しては社外人脈を仕事に積極活用する人は少数であった。女性役員増加育成促進に必要だと思う人事制度・施策として、母数拡大、役員候補選定・ナンバリング・育成プラン作成、早期の一皮むける体験、役員必須項目チェックリスト、メンター・スポンサー制度、多様なライフスタイルや中途採用・パートを含めた人事制度・施策の必要性などが回答にあがった。
また、「配慮」という名の性差バイアスによりジョブローテーション・キャリアトラックにおける機会不均衡を憂慮する回答が挙げられた。機会不均衡が昇進に必要な経験値不足に繋がるのであれば憂慮すべき事態であり、性差による戦略的活用はどこまで容認されるべきかという課題も提起された。
意識 : アンコンシャスバイアスを払拭する意識改革
本人のやる気・覚悟・視座を上げる意識改革が必要であることは当然だが、幼少期からのすり込まれた男女の役割分担や性差バイアスがアンコンシャスバイアスとして継続する中で昇進意欲がないのは当たり前だとの声もあった。解決策として、企業側が幹部候補を選定し、順位付けをして具体的育成プランを立てる、早めに子会社の役員にする、ジョブローテションをさせながら難易度を上げていく、管理職のメリットをアピールする、教育現場での女性リーダーシップ育成の必要性などが挙げられた。
女性役員候補育成の課題
「日本における女性役員候補育成の課題~女性エグゼクティブ育成研修参加者及び企業勤務女性社員へのアンケート調査より~」について、第5章を担当した小森亜紀子専任講師が発表した。アンケートは、①内閣府の委託事業「女性リーダー育成のためのモデルプログラム思考実施の効果などの調査研究」参加女性社員14人、②ダイバーシティ推進機構会員企業の女性社員90人、2つの調査を実施し、回答に基づいて分析した。
①役員になることについて、知識・スキルの不安は研修後減少したが、生活マネジメントについての不安は増加したという。回答者たちが研修後職場に戻り、現実に直面している姿が推察された。
今後の課題として昇進意欲やネットワークに焦点を当てて研究する必要性を指摘した。また、同性のロールモデルが少なく、女性の昇進意欲を高めるには多様なロールモデルが必要であるといった先行研究があり、組織外ネットワークの重要性を理解する必要があると提言した。
②企業の女性社員は、社外より社内のネットワークを重視していた。他国に比べ雇用流動性が低く、社外ネットワークの構築が難しいことが背景にある。
今後企業における女性管理職・役員を増やすには、社内のロールモデルだけでなく女性社員の社外ネットワーク構築機会も重視することが必要であることを経営層や社員に理解してほしい。また、仕事満足度は管理職群女性の方が有意に高く、プライベート満足度に管理職群と非管理職群に有意差はないことについて、非管理職の女性社員に知ってほしいと指摘した。
女性活躍推進企業にみる女性リーダー像とリーダーの育成
同研究所「企業の女性リーダー研究会」が優良企業ランキング上位13社の人事部へインタビューしてまとめた第2・3章について、メンバーの清水直美研究員が発表した。「女性活躍推進企業にみる女性リーダー像とリーダーの育成」(キャリア研修、ワークライフバランス施策)をテーマに、まず、どのような女性リーダー像を描き、育成のための研修などの施策、女性管理職・リーダーがどう活躍しているのかを明らかにした。
女性活躍推進企業の特徴として、トップダウンによって女性リーダー推進体制を整備していたという。また、「2020年までに指導的役割の女性を30%に」(202030)という政府目標に沿って推進していた。特に、指導的位置に女性が占める割合が20%以上の企業は達成数値目標に202030を意識していた。一方、20%に満たない企業は自社の状況に合わせた目標だった。
女性管理職比率別に女性管理職・リーダー育成の企業戦略について分析した結果、次のような傾向が伺えた。
- 20%以上 = 分母(女性管理職の人数の多さ)を生かして多様な人材を柔軟に活用
- 10-20% = 人事制度改革による女性活躍の場の拡大とフォローアップ
- 10%未満 = 母集団を形成しながら企業の文化風土という価値観と向き合う
リーダー・リーダーシップの男女差については、13社中7社が「ある」と回答した。男性リーダーの特徴として「指導中心で先頭に立つタイプの従来型リーダー」、女性リーダーの特徴として「部下の話を聞き、ともに進んでゆくタイプのリーダー」をイメージしていた。「Withコロナ時代の働き方が模索され大きな転換期を迎えている今、求められるリーダーのスキルや課題も変化すると考えられる」と指摘した。
女性リーダー育成とワークライフバランス・就業継続施策の展開
先進企業では戦略的に女性選抜研修を行い、3つの段階が確認されたという。- 「女性初期キャリア研修」
「とにかく辞めさせない」ことが目的。ライフイベントを迎える前の入社3~5年を対象にマインドセット研修が主流だった。 - 「選抜型女性リーダー研修」
確実に女性リーダーを育成することが目的。個別対応しながら管理職に就くことに対する女性特有の不安を埋める。 - 「選抜型男女リーダー研修」
上層管理職向けの研修として男女が同じ土俵に上る。
男性社員への取り組みでは、アンコンシャスバイアスなど男性の意識改革を目的とする研修や男性育休取得率引き上げなどが広く行われていた。「男性育休の取得率を向上させること自体は女性リーダーの育成に直結するわけではないが、地道な人事部の働きかけが女性の働く環境を改善しキャリアの上昇に貢献する」と見られる。
このほか、①相談の制度化②時間の有効活用が挙げられた。
まず企業が相談を制度化することの利点について、女性は男性に比べ「仕事を辞めること」で問題解決する傾向があること、社内で適切な相談相手を見つける難しさが潜在的に存在していること、離職を含めて企業側のリスク管理の観点からも対策が必要であることが挙げられた。さらに、相談の制度化により、相談すること自体のハードルを下げることができ、キャリアに関わる課題を企業が共有できるという。さらに制度化が企業からの「リーダーとして活躍してほしい」「仕事を続けてほしい」といった働く女性に対するメッセージ性を持つという。
時間の有効活用については、法令の定めの先をいく配慮が進んでいたという。時間に配慮した制度は企業が現場の課題を見逃さず、早期に発見し実態に基づいた制度を導入していることが背景にあり、社員のニーズに合った活用しやすい時間的なサポートが制度化されていることで女性の就業継続が可能になっているという。
最後に、女性リーダー育成と就業継続は欠かすことのできない車の両輪であること、個々人の努力に頼るのではなく、制度として仕組みを整えきめ細かくフォローする企業側の姿勢が必要であることが提言された。
コメント 坂東眞理子理事長・総長
「女性役員の実態調査や、企業人事への調査など、色々なグループが多面的に取り組んだことに大変意義があった」とコメントした。さらに、「過渡期の企業が女性を育てるうえでどのような働きかけが有効か。女性は新しいリーダーシップスタイルを開発することができるのではないか。日本経済を活性化するために女性たちは何ができるか」といった問題提起がされた。「女性リーダーを増やすために女子大学に求められる教育」を議論
論点整理を踏まえ、女性管理職を増やす、新しい取り組み・リーダーシップの在り方を模索する中で、女子大学がどのような役割を果たすのかについて討論が行われた。今井章子教授がモデレーターを務め、パネリストとして坂東理事長・総長、青木准教授、小森専任講師、女性リーダー研究会メンバーの瀬戸山聡子帝京平成大学教授(本学女性文化研究所特別研究員)が参加した。
瀬戸山教授は、「企業が女性管理職・女性リーダーに今後期待する活躍の場として、従来女性に不向きとされてきた営業職や製造現場」があるという。大学教育には、「コミュニケーション能力・自分の中で考え続ける力・協働意識といった社会人基礎力養成の期待、具体的な女性管理職・女性リーダー育成につながる教育として、ジェンダー教育・リーダー経験・継続する力・企業との交流企業への訪問機会の増加、業務理解」などが求められる。産学連携プロジェクトなどの機会を通じて、振り返りと深堀りによって「経験を文章化・言語化し、自分事として語れる表現力、プレゼンテーション能力の教育が必須だ」と指摘した。
青木准教授は、「企業の人事政策への提言を行うべく本学を含めたジェンダーダイバーシティ研究機関が研究を深めていくべきだ」と指摘した。本学には「社会人女性が本学の学生のメンターとなって学生のリーダーシップ上の悩みに関してコーチングをするという研修方法、学生へのリーダーシップ論など提供、キャリアカレッジでは役員レベルから非管理職までの女性、ならびに男性管理職を対象とした研修」などがあり、今後は企業との共同研究で中途・パートを含めた多様なライフスタイル・ライフステージにも適用可能な人事制度の研究開発にも取り組みたいとした。
小森専任講師は、日本とフランスの比較で、性別役割分業に反対、自己評価、将来の夢がある、夢のために行動を起こしている、働くことに前向きなどの項目で日本の大学生はフランスよりも評価が低いと指摘。祖母や母が働いている仏学生は働くのが当然なのに対し、日本人学生は母と同様に自分で子育てしたいと感じており、ロールモデルの少なさから選択肢を少なくしている。「学生に対しては無意識のバイアス解消などで広い視野を持てるようにすること、主体的進路選択ができる知識・学び習慣・意識を身に着けてもらうことが、社会人女性に対しては学び直しの経験の場、ネットワーク構築の場を提供できるのではないか」との考えを示した。
坂東理事長・総長は、「社会に出てリーダーをするための経験を与えるプログラムをたくさん行っているが、自分の中で消化して自分の言葉でプッシュすることがこれからの女子大の教育としてもう一つ必要なのではないか」と提言した。また、「若い女性自身が『私は女性だから』という形で自分を縛ってしまうことを変えるためにも、経験や知識だけでは十分でなく考えさせなければいけないということを改めて実感した」と述べた。
さらに、社会にでた後でのリカレント教育について討論された。坂東理事長・総長は、日本では社内で直接すぐに役に立つようなスキルを研修するという点に力点が置かれているが、特に女性の場合は「今女性を取り巻く環境がこんなに変わってきている、外の世界を見なさいという経験をすることがとても大事」と指摘。「企業には将来リーダーになる女性への期待を表明するためにも、そうした社外の研修の機会にチャレンジすることをプッシュしてほしい」と訴えた。
今井教授は、「本学もリカレント教育に対して大きな問題意識を持って様々なプログラムを行っている。キャリアカレッジや一年間で学べる社会人向けの福祉施設や消費者志向といった新しいタイプの経営の仕方を学ぶような大学院を開設しており、社外ネットワークを広げる場を提供することも大学の機能として期待している」ことを紹介した。
最後に坂東理事長・総長が、「わたしたちは女性が将来リーダーになれるような教育をするために努力している。企業が若い女性社員に期待して機会を与えるよう、心から期待している。企業の意識や大学の皆さんと、ガッツで社会を変えていきたい」とシンポジウムを締めくくった。

瀬戸山教授は、「企業が女性管理職・女性リーダーに今後期待する活躍の場として、従来女性に不向きとされてきた営業職や製造現場」があるという。大学教育には、「コミュニケーション能力・自分の中で考え続ける力・協働意識といった社会人基礎力養成の期待、具体的な女性管理職・女性リーダー育成につながる教育として、ジェンダー教育・リーダー経験・継続する力・企業との交流企業への訪問機会の増加、業務理解」などが求められる。産学連携プロジェクトなどの機会を通じて、振り返りと深堀りによって「経験を文章化・言語化し、自分事として語れる表現力、プレゼンテーション能力の教育が必須だ」と指摘した。
青木准教授は、「企業の人事政策への提言を行うべく本学を含めたジェンダーダイバーシティ研究機関が研究を深めていくべきだ」と指摘した。本学には「社会人女性が本学の学生のメンターとなって学生のリーダーシップ上の悩みに関してコーチングをするという研修方法、学生へのリーダーシップ論など提供、キャリアカレッジでは役員レベルから非管理職までの女性、ならびに男性管理職を対象とした研修」などがあり、今後は企業との共同研究で中途・パートを含めた多様なライフスタイル・ライフステージにも適用可能な人事制度の研究開発にも取り組みたいとした。
小森専任講師は、日本とフランスの比較で、性別役割分業に反対、自己評価、将来の夢がある、夢のために行動を起こしている、働くことに前向きなどの項目で日本の大学生はフランスよりも評価が低いと指摘。祖母や母が働いている仏学生は働くのが当然なのに対し、日本人学生は母と同様に自分で子育てしたいと感じており、ロールモデルの少なさから選択肢を少なくしている。「学生に対しては無意識のバイアス解消などで広い視野を持てるようにすること、主体的進路選択ができる知識・学び習慣・意識を身に着けてもらうことが、社会人女性に対しては学び直しの経験の場、ネットワーク構築の場を提供できるのではないか」との考えを示した。
坂東理事長・総長は、「社会に出てリーダーをするための経験を与えるプログラムをたくさん行っているが、自分の中で消化して自分の言葉でプッシュすることがこれからの女子大の教育としてもう一つ必要なのではないか」と提言した。また、「若い女性自身が『私は女性だから』という形で自分を縛ってしまうことを変えるためにも、経験や知識だけでは十分でなく考えさせなければいけないということを改めて実感した」と述べた。
さらに、社会にでた後でのリカレント教育について討論された。坂東理事長・総長は、日本では社内で直接すぐに役に立つようなスキルを研修するという点に力点が置かれているが、特に女性の場合は「今女性を取り巻く環境がこんなに変わってきている、外の世界を見なさいという経験をすることがとても大事」と指摘。「企業には将来リーダーになる女性への期待を表明するためにも、そうした社外の研修の機会にチャレンジすることをプッシュしてほしい」と訴えた。
今井教授は、「本学もリカレント教育に対して大きな問題意識を持って様々なプログラムを行っている。キャリアカレッジや一年間で学べる社会人向けの福祉施設や消費者志向といった新しいタイプの経営の仕方を学ぶような大学院を開設しており、社外ネットワークを広げる場を提供することも大学の機能として期待している」ことを紹介した。
最後に坂東理事長・総長が、「わたしたちは女性が将来リーダーになれるような教育をするために努力している。企業が若い女性社員に期待して機会を与えるよう、心から期待している。企業の意識や大学の皆さんと、ガッツで社会を変えていきたい」とシンポジウムを締めくくった。

シンポジウムを聞いて
本シンポジウムを聞き、本学が女性のリーダーを育成するために様々なプログラムを行っていることを知ることができた。その一方で、このような教育の機会やコミュニティの場を得ることはまだまだ一般的ではないと考える。このような機会を得ることができる個人だけがリーダーになる社会ではなく、構造を変えて皆が機会を得ることができることが必要だと感じた。