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2021.10.08

昭和ボストン 渡航再開について - 川畑由美 国際学部長に話を聞く

昭和女子大学は、米国マサチューセッツ州に保有する全寮制海外キャンパス「昭和ボストン」への渡航留学を10月下旬から再開します。
学生を送り出す国際学部学部長・川畑由美教授に、渡航再開の意図と学生に期待することについて話を聞きました。

「嫌なことは避けられる」オンライン留学

コロナ禍の世界的な拡がりを受け、2019年度後期に留学した学生の一部が途中帰国、2020年度前期からは渡航留学が中止となり、オンラインでの留学を余儀なくされました。通常のオンライン留学は時差があるので、学生の生活が昼夜逆転するなどの弊害が指摘されてきましたが、昭和女子大学は海外のサテライトキャンパス・昭和ボストンやスペインの協定校に協力していただき、日本時間に合わせてのオンライン留学が実現しました。

一方、オンラインでの学びの中で、身につけられない力も見えてきたように思います。

現地留学した学生は授業で教員が話す言葉と教室外で話される言葉のギャップに気づきます。授業以外で触れる言語を通して学生達は耳を鍛え、話す力を養うことができます。
また、対面で現地の人々と接するうちに、困難や意見のぶつかり合いに直面します。予期していなかった出来事や、思いがけない出会いもあります。かつ異文化の中に身を置くことで、「個」として自立したふるまいが求められます。この過程で、忍耐力、計画性、好奇心、協調性、共感といった「見えない力」を身に着けていきます。これらは非認知能力とも言われます。

オンラインでも学修はできますが、これらの「見えない力」を身に着けるには少し”試練”が足りないのではないかと考えます。オンラインでは都合の悪いときは接続しない、画面をオフにする、ミュートにすることで、他者とのつながりを自らの意思で簡単に遮断できます。本来対峙すべき他者との衝突、さまざまな葛藤を、簡単に避けて通れてしまうと感じています。

これらを踏まえて、教員たちは皆次第に、渡航を再開させたいという思いを強めました。
留学は失敗の積み重ねです。さまざまな失敗を通じて、それらをばねに人は成長します。渡航することで現地でたくさんの失敗を重ねてほしいです。

昭和ボストン

昭和ボストンがマサチューセッツ州にあることの意義

渡航に際してのリスクへの対応について検討を重ねてきました。

アメリカではコロナに対する考え方が地域によって大きく異なります。これらは政治や宗教など、さまざまな事情によるものです。

それでも昭和ボストンがあるマサチューセッツ州は、大学などの研究機関が多数集まることもあってか、市民は科学的実証に基づくものに関心が高く、ワクチン接種率が全米の中でも高いです。

ボストンにある多くの大学が今年1月頃から対面授業解禁への機運が高まり、試行錯誤を重ねてきました。マサチューセッツ州の公立大学、私立大学、コミュニティーカレッジの多くがワクチン接種を義務付けています。Forbes Japanの報道によると、ハーバード大学、イエール大学、ブラウン大学等の教職員・学生のワクチン接種率は9割近いです。現在では敷地内でPCR検査を受けられるなどの感染対策を行いながら、多くの大学が対面授業を開始しています。卒業式・入学式などの学校行事でも、クラスター発生は聞こえていません。

これらを踏まえて、昭和ボストンでも同様に感染対策を十分行い、定期的な検査や体調不良時の対応などを整えた上で渡航留学を再開することにしました。

昭和女子大学の国際交流センター(CIE)を通じて、書面に限らずビデオメッセージなどで私たちの思いを伝え、多くの保護者の方に理解と納得をいただけました。保護者の皆様の理解、そして昭和ボストンがマサチューセッツ州の学園都市にあるということが渡航再開においてとても重要でした。

渡航留学で気づくアメリカの「光と影」

学生には渡航を通じて、「現代のアメリカが抱える問題」をしっかり考えて戻ってきてほしいと期待しています。コロナの感染拡大を通じて、ワクチンを打たないほうがよいという考え方を持つ人の存在、政治信条による違い、知事によって異なる姿勢など、さまざまな形でアメリカの社会における分断が可視化されました。

オンラインの最大の問題点は、アメリカのよいところしか見えないという点です。実際に生活する上で、アメリカの中の「光と影」の部分が見えてくるはずです。それらを体験し、持ち帰ってくることで、アメリカ社会、さらには日本社会についても考えを深めてほしいです。
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