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2020.03.11

【研究室訪問】杉浦研究室〜サイト・リノベーションを20年続けてきて〜

 今回は環境デザイン学科建築・インテリアデザインコースの杉浦研究室を紹介する。
 杉浦久子研究室は、サイト・リノベーションを中心に、建築の立場から人と環境の関係をテーマに、資源の利活用、復興、SDGsなど様々な問題に対する研究および設計活動を行っている。

まちに出て「サイト・リノベーション」に挑戦

 杉浦研究室では、「スクラップ・アンド・ビルドの時代」から「既にあるストックを見直してゆく時代」へと変化する中で、既存空間の質を再発見し、顕在化させ新たな場を作り出すことも、建築的命題であると考えている。「既にあるものに加えることや、差し引くこと、積極的な意味において建てないことなど、場所の意味を見出し、人を含む空間全体を関係づけてゆくような環境をつくること」を『サイト・リノベーション』と名付け、20年近く、毎年実際のまちに出て、公共空間に1/1 の空間を作るプロジェクトを行い、「場」のポテンシャルを顕在化してきた。


image1-2 (1)2003年 ユキノウチプロジェクト
 このプロジェクトの1つとして2003年の「ユキノウチ」を紹介する。杉浦久子教授は、新潟県十日町市の住宅地において、「雪下ろしのために空いている隣地との空間」という魅力的なデッドスペースを見つけ、場のポテンシャルを感じた。その場所にプロジェクトメンバーも共感したため、皆でこの住民の方々にプレゼンテーションを行い、使用する許可を取ることが出来、このプロジェクトはスタートした。

 このようなプロジェクトを始めるきっかけは、ある公園が、季節労働者の方々が週末集まるキャンプ場のようになっていたことだった。それを見た杉浦久子教授は、社会的には困ったことだと思っていたが、良く観ているとパブリック空間が上手に使われ“カスタマイズされた居場所”となっていることに気づかされたそうだ。いよいよ近所の方もビーチパラソルとクーラーボックスを持ち込み、新たな交流の場が生まれていたのである。このように、【アタリマエの日常的場所の可能性】が最大限に引き出されている空間を社会に創ることを目的とし、これを『サイト・リノベーション』と呼んでいる。

 このプロジェクトは東京、千葉、新潟、愛媛、岩手、日本各地で行ってきた。日常の当たり前にあるデットスペースの中で、ポテンシャルのある場所を皆で発見して、「こんな場所がこんな風になって、使われたら…」という思いをもって活動してきたそうだ。

 また、同時進行で進める大きなプロジェクトとして杉浦研究室では、2003年から新潟の広大な豪雪地、越後妻有を舞台に3年に一度開催される芸術祭【大地の芸術祭】に出展している。芸術祭への出展は、毎年秋の文化祭である秋桜祭の展示に活かしている。

誰もが簡単に形にできる南京玉簾の手法を用いた「∞庵」

 「∞庵」は、今まで展示してきたアーチ型と打って変わって、竹を用いた、大小のループ状の南京玉簾でできた空間である。茶道部によるお点前もあり、本格的な茶室でお客さんが絶えず、賑わっていたことが印象的である。
 「∞庵」は、「南京玉簾」と、名前の由来にもなった「八の字結び」の手法を応用している。手に入りやすく、加工も簡単な竹でつくっている。そのためこのプロジェクトは、誰でも簡単に参加できるのが特徴だ。竹のカットは丸のままで、穴あけ、紐結びという、簡単な手法で特別な知識はいらない。そのため、1年生から4年生までの全員が役割を持って参加できたのが魅力だった。
今回の茶室は、昨年9月に新潟県十日町市で開催された「ライオンズの森祭り」に出展した茶室を基に、庭や風景の表現を加えグレードアップした。また「南京玉簾」は、一昨年、新潟県で「大地の芸術祭」のパビリオンに利用した手法を活用した。


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なかなか経験できない規模のプロジェクトに手応え

 文化祭当日、このプロジェクトに参加した学生にインタビューをした。
――苦労したことは?
 「せっかく立てたのに竹が割れてしまったり、使っていた紐が予定と違うものだと前日に気がついた。そのままだと、紐が緩んでしまったため、急遽作り直した。自然のものを使う大変さがあった。」(環境デザイン学科3年 藤原吏沙)
 「朝から晩まで作業をしたり、団体でやることが大変だと思った。また、学校でやるという制約が厳しく、時間や予算の中でやりたいことを表現することが難しかった。」(環境デザイン学科3年 鈴木彩花)
――やりがいは?
 「文化祭に出られる、展示させてもらえるのは学生ならでは。辛くて大変だけど、ワイワイできるのは楽しかったし、達成感があった。」(環境デザイン学科3年 鈴木彩花)

図面通りにつくることがいつも正しいとは限らない

 杉浦久子教授に、今回のプロジェクトについて、20年ほど続けてきて始めた当初との変化について聞いた。
 何年も前からこのプロジェクトを続けているが、竹を使い始めたのは3年前。きっかけは、以前から関わりのあった愛媛県の大島の人たちからプロジェクトを依頼されてお話する中で、石も竹も余っていることを知り有効活用の道を探ることになったため。この3年間で、愛媛県大島や新潟県十日町、学校や現地で何度も実験をし、何回も各地で展示させていただいた。
 このプロジェクトで竹を使い始めてから、当初の計画通りにつくることが全てではないと気づかされた。というのも、竹は自然のものであり、予想もしない動きをするため、思った通りの形にとどまってくれない。以前は、それがかっこ悪いと思っていて、図面上で計画した形通りにいかないことが許せなかった。しかし2018年大地の芸術祭の制作過程でフォルムと格闘していた際、地元の人が自然に従う形のままで良いと言われたことに、ハッとさせられ多くの発見があった。
 今回のプロジェクトでは再現性があることは重要ポイントであるが、図面は描いておらず、学生が実際に動かしながら位置や形を決めていった。図面を描いていないのに、学生自身が「ここでは立たない、もう少しこっち」というのが感覚的にわかっていて、動かしていたのが印象的であったそうだ。そして、学生皆がしっくりきたと思う位置に決定された「∞庵」は、不思議とかっこよかった。

記者紹介

image4-1 (1)右は杉浦久子教授
(左)小林 明日香 (こばやし あすか)
千葉県在住、現在は生活科学部環境デザイン学科建築コース3年生。杉浦久子研究室に所属し、建築の立場から人と環境・場所の関係をテーマに研究や設計活動、フィールドワークを行っています。
趣味はテニス、読書、映画鑑賞と美術館巡り。

(中央) 内田 ありさ (うちだ ありさ)
埼玉県在住、現在生活科学部環境デザイン学科建築コース3年生。渋谷駅のスペシャリスト田村先生の研究室に所属し、駅の模型をつくるプロジェクトに参加、上野駅を担当していました。
趣味は映画鑑賞と建築巡り。好きな建築家はガウディ。※学年は取材当時のものです。

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