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2020.05.27

【研究室訪問】コロナ禍で閉ざされた世界でグローバルに学び続ける ー現代教養学科 シム チュン・キャット准教授に聞く

 コロナウイルス感染症拡大による緊急事態宣言を受け、昭和女子大学でもオンライン授業が開始しました。また、昭和女子大学の夏季短期海外研修・後期の留学プログラムも中止を余儀なくされました。
 そこで教育社会学が専門のシム チュン・キャット 人間社会学部現代教養学科准教授にオンラインでの大学教育のあり方、コロナ禍で世界が閉ざされる状況でどのようにグローバルに学び、成長すべきかを聞きました。いつも元気で明るく、熱血な人柄から多くの学生に慕われているシム准教授がコロナ禍での学びと前向きに向き合うヒントを語ります。

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シム チュン・キャット准教授

※取材は2020年5月、オンラインで行いました。

社会と教育の関係を見つめる教育社会学

ー教育社会学とはどういった学問ですか。
 教育社会学では、端的にいえば教育が社会に与える影響とは何か、逆に社会が教育に与える影響とは何かといったことを追究します。まさに今コロナウイルス感染症拡大の影響を受けている通り、教育は社会の影響を受けるものです。最近の事例で、世界的にオンライン教育が加速する中で、教育の格差が課題となっています。これまで対面の授業においては、教師は学生・生徒・児童の取り組みの姿勢を正すことができましたが、オンライン経由になったことでそれらを保護者に委ねる部分も増えたために、全員が平等に学べないなど、様々な懸念があります。この他、ICT教育の導入の遅れ、9月入学の問題点などについても考えています。
 このように、教育社会学とは『今の教育はどうなっているのか』『なぜこうなっているのか』といった疑問を通して、教育における”当たり前”を疑います。

目指せオンライン・オフラインのいいとこどり

ー昭和女子大学でも4月下旬からオンライン授業が始まりましたが、授業はどのように進めていますか。
 私の授業は全てZoomを活用したリアルタイムで配信しています。内容は、オフラインと変わらず、インタラクティブ型。楽しく、退屈させないことを重視しています。画面越しでしか表現できないために、ついつい身振り手振りも大きくなってしまいます。
 私は常々『授業は教員と学生が両方で作り上げるもの。一緒に作っていこう』と学生に伝えています。教える立場の私も、オンライン授業は未経験です。学生にも、受け身ではなく、もっとこうしたらよい、ということをどんどんフィードバックしてほしいと伝えています。
 私の授業のチャットでは、コメントや疑問、反論、質問がたくさん飛び交います。このような積極的な姿勢が、オフラインになってからも続けばよいです。せっかく自宅でやっているのだから、保護者の方が参加してもいいと思います。私は大歓迎です。保護者の皆さんは、学生が大学でどんなことを学んでいるかわからないと思います。
 でも、学生が恥ずかしがって遠慮するかもしれません(笑)

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オンライン授業の様子
ーオンラインとオフラインの授業の違いはありますか。
 オンラインの学びは良いところがたくさんあります。通学の移動時間がないから、たっぷり寝られるし、化粧もそんなに気にしないでいいから、授業やディスカッションに集中できます。さらにオンラインになったことで、2名の留学生が遠隔で韓国から私の授業を履修できています。オンラインだからこそ、です。
 オンラインとオフライン、どちらのいいところも取り、併用していけば”最強”になると思います。All or Nothingではなくて、良いゾーンを探せばいいと思います。
 けれど、まだ1年生はキャンパスに登校していないから、オフラインでの大学の学びの良さを知りません。1日も早くコロナウイルス感染症が収束して、大学に行くことの意味、機能、ありがたみを考えてもらえたらと思います。

「問い方」を学び、”Sense of Wonder”を養う

ーゼミ活動はどのように行なっていますか。
 ゼミもオンラインですが、オフラインの時以上に学生が『自分で調べる時間』『自分で考える時間』を重視しています。
 ゼミではまず課題を出し、自分たちで調べてもらっています。オフラインでゼミをやっていた時は、さっと資料や本を渡せていたけれど、今はそうもいかない。だからこそ、資料も含めて自分たちで調べて、考えてもらっています。ヒントとなる資料を事前に送ってしまうと、”ネタバレ”になってしまうので、資料から調べる点が大事です。その上で、ゼミでディスカッションします。学生が何を調べてきても、どんな結論が出ても、すぐ学生に質問できるアドリブ力が問われます。
 一方的に教えるのではなく、学生の発表を教員が質問し、それを説明してもらうほうが学びにつながると考えられます。学生に様々な質問しながら導いていくというのが私がめざす教師像です。一方的にTeachするTeacherではなく、ラジオの電波の頭文字と同じ「AM FM」が求められると考えています。Aはアドバイザー、Mはマネージャー(時間管理やペースメーカー)、Fはファシリテーター、Mはモチベーターです。オンラインでは特にMは重要です。
ーこの状況で、学生が学び続けるヒントをお願いします。
 オンライン授業になって、学生たちは課題が増えている感覚があるみたいです。レポートも大事だけど、”考える時間”が一番大事だと思います。課題に追われて、考える時間が無くなっていないか心配です。
 大学での学問は、暗記ではありません。学んで問う、と書いて”学問”です。また、問い方を学ぶことが大事です。小中高のときの宿題ではなく、自分で本を進んで読み、たくさんのクエスチョンを持ち、新しい、素敵な好奇心を持つこと、それが大学でやるべきことなのです。
 コロナ禍を機に、教育のあり方に”新しい花”が咲けばいいな、と思っています」「大学でどう学ぶか、というマクロの視点に加えて、ミクロの視点も大事です。日常の些細なことをピックアップして、気づくこと。当たり前の風景についても考え直すこと。生命、自然、宇宙の不思議に感動する心ーすなわち”Sense of Wonder”を養いましょう。
 様々な活動をオンラインで行う中で、アナログの価値を考える機会が増えたのではないでしょうか。例えばオンラインでの飲み会。やりましたか?私もシンガポールや韓国の友人とやってみましたが、なんだか違う。おつまみなど、食の共有の意味とは何なのか。実際に居酒屋にいく意味とは何なのか。なぜ、オンラインでもできるのに、直接人に会いたいと思うのか。人間らしさ、人間について考えるきっかけになると思います」「絶望的な状況に置かれても、その惨めさを笑い飛ばせるような、誰も傷つけずに笑いを希望につなげられる”Sense of Humor”も重要です。相手を傷つけずに、前向きに楽しく過ごせることがよいです。残念ながら、日本でも差別や、感染者に対するハラスメントがありますね。もっと落ち着いて!と思います。

世界規模の共感センスを身につけよう

ー留学ができなくなり、各国に閉じ込められています。
 コロナ(の感染拡大)は大変なことも多いです。でも、悲しいことばかりではありません。
 まず、コロナは地球規模で『みんなが同じ体験をする』状況をもたらしました。国同士の衝突や政治はさておき、人間としてのストレスのため方、苛立ち、政治への不満・・・国境を超えて共感できる部分は多いはずです。日本人だろうと、シンガポール人だろうと、みんな同じ危機を”共有した”ーーこの経験はこれからのグローバリゼーションにおいて、大きな力を持つと思います。
 人と分かり合える共感センス”Sense of Empathy”を養う機会です。相手の立場になって考えることです。Sympathy(同情)と間違えないでくださいね」「コロナに対する各国や地域の対応、感染者数や死者数を通じて、いろんな国や地域の事情・背景が分かります。コロナに関するデータも教材になります。
 例えば、シンガポールも爆発的に感染者が急増していますが、死者は21名(5月13日時点)。これはなぜだろう?ということを学生に考えてもらっています。様々な要因が考えられます。
 疑う力を発揮しながら多角的視点から世界を捉えることが重要です。いろいろな知識を吸収し、いろいろな角度から見る。いろいろな国の事情を知る。ウイルスが国や地域、地球にもたらしたことを考える。コロナを教材に世界を考えることで、”Sense of Proportion(釣り合い・均衡・調和・バランス)”を養えます。
 実際に留学することも大事だけど、家にいながらでも頭の地図を”日本地図”から”世界地図”に塗り替えられます
ーコロナ禍を前向きに捉えて自分の成長に活かすのですね。
 コロナ禍を通して、オンラインで仕事をしたり学んだり、誰もが強制的に”5年後”に飛ばされました。私は社交的な性格なので、家にずっといることができるだろうかと心配していましたが、今ではほとんど外出していません。人間、やればできる!と感じました。みんなが『やればできる』と自信を得たはずです。
 私は学生に『偏差値より”変化値”』と言っています。偏差値なんかどうでもいい。入学してから、あなたが変化・成長すれば、それで素晴らしいのです。これはオンラインでもオフラインでも変わりません。
 この状況を活かすも、無駄にするのもあなた次第です。

関連リンク

現代教養学科ブログリレー「Go Global in Your Room!」- シム先生     
-シム准教授による自宅でも英語力を高めるための学び方を紹介する記事。

現代教養学科ブログリレー - 現代教養とは… Fill Up Your Senses! シム先生 -  
-今回の記事でも紹介した、”シム・バージョン”の「教養」の核となる4つのセンスを語る記事。

シム チュン・キャット准教授 教員紹介・研究業績




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