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2023.05.12
【昭和学報】100周年記念事業の総仕上げ 外と中をつなぐ開かれた正門を設計

一級建築士
永山 祐子建築設計代表 永山 祐子 さん 1988年 昭和女子大学生活科学部生活美学科(現:環境デザイン学部環境デザイン学科)卒業 (ながやま ゆうこ)青木淳建築計画事務所を経て 2002年、永山祐子建築設計設立。「豊島横尾館」でJIA新人賞(2014)はじめ受賞多数。ドバイ万博日本館(2021)、東急歌舞伎町タワー(2023)、大阪万博パビリオン(2025)などを手がける。本学非常勤講師、武蔵野美術大学客員教授。 |
正門の依頼を受けて
正門の依頼を受けたとき、運命のようなものを感じてうれしかったです。大学3年のとき、「学生会館を学校の敷地内で好きな場所に設定して設計しなさい」という課題に、私が選んだのがまさに正門でした。門型の建物を作り、楽しく過ごしている学生の姿そのものが学校の顔になる、というコンセプトでした。
今回、門単体の仕事は初めてでしたが、 内と外を隔てるのではなく、このときと同様、中の活気が外にあふれ出るような、学校の中と外の社会をつなぐ門にしようと思いました。

校章の桜をイメージさせる意匠が、実は構造でもあるというのが一番の特徴です。レースだけでシームレスにつながる繊細な構造で、一切支柱は入っていません。女子大らしいやわらかさと、内面の強さに通じる、構造としての合理性と強さを兼ね備えています。
正門で苦労したのは、堅牢さと繊細さの兼ね合いです。4層構造のアルミキャストの部材を花のような形に真ん中で留めているのですが、一つ一つ3Dモデルにして強度を計算しながら、どこからも太く見えないように工夫しつつ、一番出っ張りが小さい留め方をしています。

「世の光となろう」という建学の精神のように、ライトアップした姿もイメージしました。原寸大の模型で試し、ひだのところに全部照明を入れて一体感を出しています。「夜きれいだね」と学外の人たちに言われて、学校が終わった後も「昭和女子大学」を発信し続ける、門以上の役目を果たせたと思います。
照明を仕込んで円形に門を動かすための駆動部が武骨なので、鏡を使って存在感を消しました。門の下には配管、配線などインフラがびっしり。結構、エンジニアリングが詰まっています。
学生同士、あるいは学生と地域の人が混ざり合う場所にしたくて、門を内側に引いてポケットパークを作りました。私が通っていたころの昭和女子大学は同じ年代の女子に偏っていましたが、今は幅広い年齢層、性別、国籍の人たちがグローバルに混ざり合って、とても羨ましいです。
建築を志したのは
建築を志したのは、高校時代にたまたま友だちが建築の話をするのを聞いてピンときたからです。建築家だった祖父の夢を受け継ごうと、当時一級建築士の資格がとれた本学に進学しました。でも本当にやりたいのは、恒久的に存在し続ける建築なのか、瞬間的に消費されるけれど人に感動を与える空間舞台美術の芸術なのか、迷いました。3年の夏休みにボランティアで舞踏家田中泯さんが踊る後ろから黒子として落ち葉を投げていたのですが、舞台にいる泯さんが素晴らしすぎて、ここに私の居場所はない、と建築に進むことに決めました。
就職氷河期でしたが青木淳建築計画事務所に「うちは4年制」と採用されて、入ってからが大変でした。「大学であの先生の話、もっと聞いておけばよかった」と思うことばかり。学校の教科書を持ちこんで、 事務所で机の下に寝泊まりするような生活を4年続けて、26歳で独立しました。
ターニングポイント
ターニングポイントになったのは、横尾忠則さんの美術館「豊島横尾館」です。妊娠がわかった後、子どもを産んで本当に建築家を続けられるだろうかという葛藤の中で話をいただきました。この仕事でJIA新人賞をもらったとき、私は「建築家を続けなさい」って言われているんだな、と思いました。子どもたちは今、10歳と9歳。寝る前に帰って、絵本だけは読んでいます。ドバイ万博のときは出張続きで我慢させたので、「出来たら(ドバイに)行ってラクダに乗ろうね」と約束して実現しました。今度の大阪万博で設計しているパナソニックパビリオンはターゲットがα世代、子どもたちの世代です。彼らがどんなふうに感じるか、意見を聞きながら進めています。
建築は「きっかけ」を生み出す
建築はモノですが、「きっかけ」を生み出す力があります。正門を替えたことで人が集まる、大学と外との関係性が変わる、ひょっとすると建築を通して町が変わるかもしれない。建築によって、まったく違う効果が生まれる「きっかけ」を作れる。自分が作った建物に行って人がいきいきとしてくる、そういう効果を見ると、やって良かったな、と思います。ありがたいことに幅広い分野で声をかけていただいています。相談にきた方たちに見えていない角度から、どれだけ新しい提案をできるか。逆側から見ることを意識しています。